執筆者:桜井 悌司(NPOイスパJP)

 

情報発信の必要性につき、昨今、大いに注目されている。筆者自身、ジェトロ入会以来、一貫して、情報発信、海外PR,広報に、従事し、関心を持ってきた。海外では、極力、新聞・雑誌やテレビ等に露出することを心掛けてきた。一口に情報発信と言っても、それほど簡単ではない。何故なら、情報発信は、①誰が、②何を、③どのタイミングで、④どのような方法で行うかが問題となり、それぞれで困難なことに遭遇する。

 

「誰が情報発信者なのか」

 

まず最初の①「誰が」の問題から始めよう。情報発信する人は誰でもよいことにはならない。これは、企業の不祥事の記者会見などを見ていても、比較的地位の低い人が、会見すると必ずと言っていいほど、問題が紛糾する。できるだけ高い地位の人、できれば社長等トップが前面に出ることが望まれる。誰が、前面に出るのに最も適当な人物かを真剣に考慮する必要がある。ジェトロの海外での広報の例で説明すると、海外事務所の所長は、常に現地のマスコミ関係者とのコンタクトを重視することが望まれる。そうでないと、いざ情報発信をしたくても、誰にコンタクトすべきなのかもわからないし、日頃からコンタクトが無いと相手にしてくれないことになる。言葉の習得も必要である。また広報マンは、広報センスが要求され、そのセンスを習得するには少々時間もかかる。現場でのトップは、日常的に現地のマスコミ関係者と食事を共にするなどして、関係強化に努める必要がある。

 

「何を伝えるのか、メッセージは何か」

 

第2の「何を」も極めて重要なポイントである。こちらが訴えたいことであっても、相手が関心を持ってくれなければ、それ以上発展しない。したがって、相手側が関心を持つようなテーマは何か、こちらの訴えたいことを相手に関心を持たせるにはどうすればいいかを考える必要がある。また、しっかりとしたデータや内容に基づき、情報発信をしなければならないので、調査力が必要となる。海外事務所の調査力はおのずと限界があるので、そこは、本部や本社の広報部門のバックアップ体制が不可欠となって来る。また、日本人の常として、自分で判断せず、本社や本部に問い合わせることが多い。日頃から、本社と海外支店の間のコミュニケーションを密接にして、何を話していいのか、話してはいけないことを把握しておくことが望まれる。

 

「どのタイミングで行うのか」

 

③のどのタイミングで行うかも大切なポイントである。日本、日本人、日本企業に対する中傷や誤った報道があった場合、直ちに反論しなければ、記事の内容を認めたと判断される。またマスコミにリリースしたり、記者発表する場合でも、他の諸々の事件が錯綜している場合は、とりあげてもらえない。常に何故、今かを考えなくてはならない。

 

「どのような手法で伝えるのか」

 

④のどのような手法で行うのかも考慮しなければならない。記者発表か、ニューズ・リリースか、記者会見等で相手に直接訴えるのか、宣伝媒体を活用するかである。予算、人材、時間等の要因が関係してくる。

 

日本全体の情報発信力が弱いとよく言われる。政府、外務省も十分ではないし、政府機関、経済団体も同様である。企業も自分たちの利益に関わることには熱心に広報するが、もう少し、大きなテーマには関心を示さない。

 

日本人や日本企業の出先は、自分から進んで広報活動をするケースは比較的少ない。そこで、情報発信を推進する上で、最も重要かつ効果的な方法は、本部や本社が情報発信の重要性を認識し、大いに奨励し、評価することである。それなしに情報発信は強化されない。

 

ではどうするか? 筆者の経験を紹介する。

 

  • 自分たちの組織を知らせ、コンタクトさせるようにする

最初に海外事務所に赴任した時は、駐在員の知名度は、当然ながら低い。しかし、組織は以前から存在する。そこで、ジェトロの事務所にコンタクトすれば、日本の情報とりわけ、経済、産業、貿易、投資、技術等につき情報提供が可能ということを広くPRすることにした。そのために、小規模ではあるが、「日本経済情報センター」と「ブラジル経済情報センター」を事務所内に設置することにした。「日本経済情報センター」には、チリ人の輸出業者が役に立つと思われる輸出入業者ダイレクトリー、各種統計、産業情報、技術情報、貿易情報、映像等を揃えた。「ブラジル経済情報センター」には、在サンテイアゴの日本の企業や日本からの来訪者に役立つ各種チリ情報、統計、専門誌等を取り揃えた。事務所を訪問するチリ人が急増した。ラテン風に見かけを作ることによって、ある程度の効果が出た。こうすることによって、後任者が来た場合でも、継続して効果を発揮するからである。

 

  • 現地の媒体に寄稿する

チリのサンテイアゴ赴任中は、当時の事務所のスタッフが、経営誌と親密な関係にあったため、日本とのビジネス、日本式経営、日本の輸出振興策、日本の品質管理などの記事を執筆し、掲載してもらった。掲載分のみを別刷りのパンフレットにすることを了解してもらい、別刷り分をセミナーなどに配布した。現地の有力媒体に寄稿することにより、信用度が格段に増した。サンパウロでは、各種提言などは、すべてポルトガル語に翻訳し、マスコミに発信するようにした。

 

  • 現地の政府に提言する

最初の赴任地のサンテイアゴでは、チリ政府は、日本や外国からの投資誘致に関心を

持っていた。そこで、外資委員会をたびたび訪問し、「どうすればチリに外資を誘致できるか」と言うテーマで提言をした。必ずしも、提言をしたからではないと思うが、10の提言の内、チリ政府は、投資ガイドブックの作成、東京事務所の設置等7項目につき実現してくれた。イタリアのミラノ駐在中でも在イタリア日本商工会議所から同様の提言を発表した。ブラジルのサンパウロでは、党首誘致に加え、観光誘致についての提言レポートを作成し、マスコミに配布した。提言書を作成することによって、中央政府、州政府、財界の要人とのアポイントの取得が容易になり、組織をアピールすることに繋がった。

 

  • こちらから売り込む

チリでは、全国の大学に手紙を送り、前述のテーマのようなことにつき、学生にいつ

でも講義する用意がある旨知らせたところ、13大学からオファーがあった。経費については、宿泊費か航空賃のどちらかを大学側に出してもらうことを条件とした。イタリアのミラノでも、ローマにあるCONFINDUSTRIA(イタリア経団連)と協力し、年間10回くらい、地方での対日輸出セミナーを行った。サンパウロでは、国際協力機構(JICA)と開発商工省(MDIC)の支援を受け、ブラジル全土で、日本オポチュニテイ・セミナーを30回行った。JICAが航空賃、宿泊料を支援してくれたのであるが、その機会を利用して、州政府の開発長官とアポイントを取り、意見交換を行うことができた。

 

  • 現地マスコミからの取材には、積極的に応じる

少しずつ、現地での広報活動を進めて行くと、現地のマスコミから取材の申し込みを

受けることになる。これらの申し出には積極的に受けるようにした方が良い。また地方でセミナーを行うと、必ずと言っていいほど、その地の新聞やテレビ局がやって来る。取材に応じると、必ずと言っていいほど、翌日の新聞に報道されたり、ニュースとして放映される。無料で当方の活動を紹介してもらえることになる。

 

  • では、翻訳をどうするのか?

では、翻訳をどうするのかという問題が常に生じる。筆者は、自分で翻訳はしていな

い。十分な能力が無いからである。常に事務所で一番優秀なスタッフの協力を得ることにした。まず、①自分でレポートや提言を日本語でまとめる、②優秀なスタッフを呼び、執筆した内容を説明し、協力を依頼する、③口頭で、書いた内容を逐一現地語に訳し、説明する、④それを現地スタッフが翻訳する、⑤何度か内容を修正し、最終案にする、⑥ケースバイケースであるが、著作は、両名で出すようにする。この方法だと、一人で苦労して翻訳する時間が相当省け、現地語の質も高くなるし、スタッフのモチベーションも上がることになる。

以   上