執筆者:桜井悌司(NPO法人イスパJP)

 1968年にジェトロの研修でスペインのマドリード大学に1年間の短期留学をした。その際に、留学生活を実り多いものにするには、どうすればいいかを考えた。当時、海外移住事業団の総務部長である故林屋栄吉さん(元スペイン大使、元スペイン・レアル・アカデミア・エスパニョーラ会員)にどうすれば、留学の成果が上がるかにつき、教えを請いに行った。林屋大使のアドバイスは、2つあり、一つは、毎日スペイン語で日記をつけなさい、もう一つは、極力テアトロを見に行きなさいというものであった。日記については、毎日ではなかったが励行した。テアトロは、数回見に行ったが、励行したとは言い難い。日記をつけることは、作文力の強化につながるので十分に理解できたが、何故テアトロかといろいろ考えた。今になってみると、林屋大使は、スペイン文化の神髄であるテアトロを鑑賞することによって、語学力と文化力の2つを学べということを私にアドバイスしていただいたと理解している。

ジェトロを退職後、関西外国語大学で教鞭をとるとともに、大学の留学委員の仕事をした。大学の重点施策が留学生交流であり、私は、留学生選抜の試験問題作成や面接試験などを行った。主として、スペイン、ポルトガル、中南米への留学に係わる業務であった。委員をやってみて、気がついたことは、学生が、留学で成果を上げる上で最も重要な3P、すなわち、PREPARATION(準備)、PLANNING{計画}、 PATIENCE(忍耐)を実践していないことであった。最初のPである準備は、留学試験への準備、合格してから留学に行くまでの準備、帰国後の就活等への準備等である。2番目のPは、留学期間に最大限成果を得るうえでの学習計画作りである。留学中の休暇を活かし、国内外旅行をする計画の立案も副、まれる。3番目のPの忍耐は、すべてに当てはまるが、語学や研究習得上の忍耐強さ、外国生活に伴う各種忍耐の必要性である。そこで、学生のために、大学職員と留学経験者と一緒に、留学マニュアルを作成することにした。最初は、2013年に作成し、最終版である「関西外大生のための留学マニュアル」(スペイン・ラテンアメリカ編)を2014年9月に完成、短期留学に関心を持つ学生に配布した。

その後、2012年~13年に文部科学省主催「南米諸国との国際協力に関する審議会」委員、2015年に、文部科学省の依頼で、独立行政法人日本学術振興会の「平成27年度大学の世界展開力強化事業~中南米等との大学間交流形成支援~」の審査部会委員を務め、国内の大学による留学プログラムに関わりができた。ここでも気がついたことは、ほとんどの大学も留学先の大学を探し増やすこと、留学生の派遣や受け入れの量を増やすことに精いっぱいで、どうすれば、留学の成果を出すことができるかというソフトの面まで、エネルギーが行き届いていないことであった。
留学にも、学位や修士号を取得するための留学や最大1年で語学習得を目指す留学等がある。ここでは、英語留学ではなく、大学で初めて習うスペイン語やポルトガル語を習得するための短期語学留学の心得を紹介する。また留学に行く学生は、ごく普通のレベルの学生を考慮した具体的なアドバイス集である。下記のことを実践することはなかなか難しいことであるが、少しでもやってみることをお勧めする。

留学前に準備すること・心がけること

*知的好奇心を持つように心掛けること
・ラテン人は好奇心旺盛。好奇心旺盛な人は魅力的
*留学先のことをできるだけ事前勉強をしていくこと
・歴史、政治、経済、社会、文化等々
・相手国を知ろうと努力する人は敬意を表される
・相手国を知れば知るほどよりよく理解できる
*日本のことを勉強しておく
・日本のことを外国語でわかりやすく説明する習慣をつける
・いかに自分は、日本のことを知らないかと感じる環境におくようにする
・自分は、日本大使だと思うくらいの気概を持つよう努力する
*できるだけ、事前に、読解力、作文力、ヒアリング力をつけておく
・NHKワールド等のスペイン語・ポルトガル語を読み聞きする習慣をつける
*可能であれば、留学生や外人観光客をつかまえ会話の練習をする
*なかなか難しいが、スペイン語検定3級、DELEのB2の合格をめざす

留学地で心得ること

*留学目的を明確にする
・何を勉強したいのか?何を得て帰りたいか?
・何のために勉強したいのか?
*与えられた留学期間と達成すべきことを考える
・DIPLOMAを取得する
・会話の上達、どの程度までの上達か?
・国民性の理解
・将来の仕事に役立つことをする
*授業にはまじめに出席する
・授業は学習、情報収集のベストの場、極力前の席に座ること
・授業はAMIGOSをつくる上で重要
*友人をたくさんつくり、一緒に会話したり、行動する機会を増やす
・大きな声で話す訓練をする
・日本の2~3倍話す努力をする
・人より先に挨拶するように努める
・SIMPATICOと思われるように努める
・AMIGOSは、GIVE & TAKEで成り立つことを理解する
・1日に最低20語の単語を覚えるようにする。半分忘れても1日、10語の単語を
覚えることが出来る。スペルをノートに書きながら覚えるようにする
・1日に最低10~20の質問を準備し、その日の内にできるだけ多くの人々に話し
かけ、同じ質問を投げかける
・パーテイを組織する・参加する。誘い合う。誘われれば、パーテイや会合には喜ん
で参加する
・2人の会話であれば、2分の1,3人の会話であれば、3分の1の時間は自分の持
ち分と考える習慣をつけること
・土日を有効に使う方法を考える。旅行、ハイキング、博物館、スポーツ観戦、デー
ト、パーテイ等々
・ラテンアメリカに対する先入観を持たない。新しいイメージを見つける努力をする。
変化するラテン世界をフォローする
*自分の意見を持ち、主張する
・間違いを恐れない
・常に自分はどう考えるのかを頭の中で整理しておく
*大いに恥をかくようにする
・自分がいかに何も知らないかということを早く気付く
・できるだけ早い時点で恥をかく。恥をかく環境に自分を置く
*考えたことを積極的に行動に移す
・行動に移して後悔する可能性は、行動せず後悔する可能性と比べてはるかに低い
・行動するとほとんどの場合良いことがある
・常にフットワークを軽くする
*新聞を読む
・政治経済社会情勢をつかむ。1週間に1日だけ新聞を購入し、地域のイベント情報
をチェックする。各種文化・スポーツ・イベント&行事のスケジュール等を知る
*日記を毎日、留学地の言語でつける
・作文力をつける
・ネイテイブの友人に添削してもらう
*先生には極力コンタクトするようにする
・わからないことや相談したいことがあれば遠慮なくコンタクトする
*わからないことは何でも誰に対しても聞く習慣をつける
・聞くは一時の恥、聞かずは一生の恥
・人は聞かれることが大好き、教える喜びを理解する
*その国の国民性を知るように努める
・人々の考え方を理解するようにする
・常に何故を発信し、相手に尋ねまくる。自国のことを知ろうとする外人は常に歓迎
される
*ラテンの世界では常に好循環をつくることが必要。そのためには、積極的に行動する
ことが必要
*極力、大学の寄宿舎かPENSIONに入る
・日本人とできれば一緒に住まないようにする
・アパートは話す機会が少なくなるので極力避ける
・大学の寄宿舎がベストであるが、入れない場合は、ペンションが良い
*旅行計画もできるだけ早く立てる。一緒に旅行する相手を探す
・休み中の旅行計画(できれば友人と一緒に行くようにする)は早めに立てる
・留学期間を考慮し、いつ休み期間になるかをチェックし、行き先等を計画する
・留学期間を1年としても1年はあっという間に過ぎさる
*話す能力をつけることを最優先課題にする
・滞在が短い場合は、話す能力を高めるように最大限努力する
・ヒアリング、リーデイングは家でも日本でもできる
・外でしかできないことと家でもできることを区別する
*スポーツや観劇に行く(TEATROは、語学の勉強に良い)
・スポーツ観戦をすると国民性が理解できる
・TEATROはヒアリングの向上、文化の理解、エンジョイできると一石三鳥
*YES, NOをはっきりさせる
・あいまいだと誤解される
・あいまいだと不利益を蒙る可能性が高い
・外国人のNOは、日本人が考えるほど強くない
*男性は積極的かつ気楽に、外国女性にデートに誘う
・ダメ元精神で行く
・もちろん相手にはOPTIONがあることを忘れてはいけない
・日本女性は誘われる可能性が大
*常に心臓強く振る舞うこと
・日本人は総じて謙虚なので、いくら心臓強く振る舞っても振る舞いすぎではない

以   上