執筆者:西岡勝樹(日本旗章学協会会員)

「はじめに」

ガリシアの旗に見る不思議を見ていきたい。

図1 ガリシアの旗

1. ガリシアについて

1-1.スペイン行政単位

スペイン第一行政単位 自治州及び自治都市(Las Comunidades Autónomas)

・17 自治州(17 las Comunidades Autónomas)
・2 自治都市、セウタ市、メリーリャ市(2 las Ciudades Autónomas de Ceuta y Melilla)スペイン第二行政単位及び第三行政単位 県、市町村(Las Entidades Locales)
・50 県(50 provincias)
・8,117 市町村(8.117 municipios)

図2 スペイン 17の自治州

図2 スペイン 17の自治州

1.2.ガリシアとは

ガリシアとは緑の大地と紺碧の海に育まれた豊穣の地ガリシア自治州 (Comunidad Autónoma de Galicia) スペインの自治州のひとつ。イベリア半島の北西部に位置する。

ガリシア州の州都

★サンティアゴ・デ・コンポステーラ (Santiago de Compostela):ガリシア州政府・州議会がある場所であるとともに、中世からの聖ヤコブ信仰に基づく「サンティアゴ巡礼」の聖地でもある。

カリシア州は下記の4県から成る。

  • ア・コルーニャ県(Provincia de A Coruña)
  • ポンテベドラ県(Provincia de Pontevedra)
  • ルーゴ県(Provincia de Lugo)

●オウレンセ県(Provincia de Ourense)

3 ガリシア州 4県の図

2.ガリシア州旗

2.1.ガリシア州旗の法的根拠

図4 ガリシア州旗(州章無し)

★1981年4月6日付組織法第一号(同年4月28日付官報第101号)
ガリシア州自治憲章(スペイン中央政府の組織法としての州自治憲章の中に規定されている。この自治憲章は各州の憲法に相当)
出所:https://boe.es/buscar/pdf/1981/BOE-A-1981-9564-consolidado.pdf 第六条
一項 ガリシア州旗は白色の下地に左斜め上部より右斜め下部に沿った青色の斜めの帯(バンダ)を配するものとする。
二項 ガリシア州は独自の州歌および州章を持つ。

★1984年5月29日付法律第5号(同年6月23日公布官報第120号)、ガリシア州シンボル 出所:https://www.boe.es/boe/dias/1985/03/28/pdfs/A08251-08253.pdf 第二条 ガリシア州旗
一項 ガリシア州旗は自治憲章第六条の規定に従い、白色の下地に左斜め上部より右斜め下部に沿った青色の斜めの帯(バンダ)を配するものとする。
二項 ガリシア州旗は自治州における公共及び公的な機関の建物に掲揚する場合は州章を伴う州旗とする。

図5 ガリシア州旗 州章付(公的機関向け州旗)(左)と ガリシア州旗図(右)出所:https://www.xunta.gal/a-bandeira

第三条 ガリシア州章ガリシア州章は青色の下地に銀色の聖体を乗せた金色の聖杯を配し、周りに七つの同じ金属から切り取られた十字架を両側に三つ、真上に一つを置く。
盾上部王冠、閉鎖型にて金冠、貴石を配する、8 つのアカンサスの葉の花形装飾、その中で 5 つが見える。
その中央に真珠が挿入されている。その葉(ダイアグラム)から外の真珠とを結ぶ紐が突出している。
青色の地球(世界)に金色の中央子午線と赤道、頂上に金の十字架を配する。王冠は赤色の布で形付けられる。

図6 ガリシア州章(左)とガリシア州章図(右)出所:https://www.xunta.gal/o-escudo

第五条 ガリシア州旗は自治州内における公共の建物、公的機関において、スペイン国旗と共に掲揚される。
第七条 ガリシア州章は下記に出現する:
1項 第五条の条項に従う場合。
2項 国王、およびガリシア州政府首相の名による発布されるガリシア州法において。
3項 ガリシア州行政官庁の正面看板等において。
4項 州政府の封書シーリングの刻印等において。
5項 州叙勲の証明書のタイトル等において。
6項 公的刊行物等において。
7項 州政府の公式書類、印刷物、レターヘッド、刻印等において。
8項 州政府外交団等公式行事において。
9項 州政府当局関係各位の記章等において
10項 官庁・公共・公的建造物、公共・公的目的とするすべてにおいて。

★追記条項
第一条 ガリシア州旗は横幅(旗の長さ)(longitud)は縦幅(旗の幅)(ancho)の2分の3の長さとなる。
帯(バンダ)の縦幅は旗の縦幅(ancho)の4分の1の幅とする。
第二条 州旗において、州章は旗中央に配される。州章の高さは州旗の縦の幅の半分となる。

7 ガリシア州旗 寸法図

2.2.現ガリシア州旗の起源
現ガリシア州旗はコルーニャ海軍旗に触発されて 19 世紀中に生まれた。
この時代は何百万人ものガリシア人移民がガリシアの政治経済的な困窮から新天地アメリカを目指して毎月のように船出していった。その主な港がコルーニャ港からの移民の船出であった。
言い伝わるところによると、移民たちはコルーニャ港にそびえる海軍の旗、大西洋にもはためくこの旗をガリシアの旗と思っていた。そして、新世界に着いた時、ガリシアーアメリカ系移民はコルーニャ海軍旗をガリシアの旗として使い始
めた。何十年か後、白と青の旗は大西洋を戻どり、現ガリシア州旗としてガリシアで州の旗として認められた。

2.3.ガリシアの旗に見えるサン・アンドレスの十字架
元来のア・コルーニャ海軍旗は白地に青い斜め十字。この斜め十字はサン・アンドレスの十字の名でよく知られている。
サン・アンドレスはスコットランドの聖人であり、同時にガリシアにはその名を捧げられた 72 の教区があり、またガリシアでも最も親しみのある聖人の一人である。
1891 年コルーニャのサンアンドレス十字はロシア帝国海軍旗との混同を避けるため、変更された。帝国海軍旗も同様に白地に青の斜め十字を配していたものである。その変更点は二本の交差する十字の腕から一本の腕を取り去った、結果現在のようなガリシアの旗の形となった。ほぼすべてのヨーロッパの国旗はラテン十字、ギリシア十字、横帯、縦帯の形の影響を受けている。
ガリシアの旗が斜めの帯からなる理由はスコットランドの旗と同じようにサン・アンドレス十字の影響を受けているのである。
出所:http://www.bandeiragalega.com/es/galicia.htm

図8 ガリシア州旗に影響を与えた旗(左)(中央)と現ガリシア州旗(右)出所:http://www.bandeiragalega.com/es/galicia.htm

2.3.ガリシア州を構成する4つの県

図9 ガリシア州の人口及び4つの県の人口推移

●ア・コルーニャ県(Provincia de A Coruña):
海に面している部分が4県の中で最も多く、県庁所在地であるア・コルーニャ市 (Ciudad de A Coruña) にある港の他、大小の漁村が無数にある。内陸は、州都であるサンティアゴ・デ・コンポステーラ (Santiago de Compostela) を含み、比較的交通の便が良いので年間を通して観光客も多い。ア・コルーニャ県内の産業は多岐に渡り、海沿い地域の漁業の他、観光業(レストラン・ホテル業を含む)、サービス業、乳業、農業、情報処理業、小売産業など。

図10 ア・コルーニャ県旗

●ポンテベドラ県(Provincia de Pontevedra):
ヨーロッパで最も重要な漁港のひとつであるビーゴ港 (Puerto de Vigo) を抱える。ビーゴ市 (Ciudad de Vigo) とその周囲の市町村は、主に漁業と機械産業が盛ん。県庁所在地のポンテベドラ市 (Ciudad de Pontevedra) は、ローマ時代から栄えた由緒ある町で、町の中心には美しい中世の旧市街が残っている。南部はポルトガルに接し、全体的に温暖な気候の土地が広がる。ポンテベドラ県にあるワイン原産地のひとつ「リアス・バイシャス- Rías Baixas」のワイン
「アルバリ―ニョ-Albariño」種白ワインは世界的に高い評価を得ている。

図11 ポンテベドラ県旗

●ルーゴ県(Provincia de Lugo):
県庁所在地のルーゴ市 (Ciudad de Lugo) には、世界遺産の「ローマ時代の城壁 – Muralla de Lugo」があり、毎年、
「ローマ祭 – Arde Lucus」で賑わう。「サンティアゴ巡礼 – Camino de Santiago」の「フランス・ルート – Camino Francés」で、ガリシア州の出発点になるのが、「セブレイロ峠 – O Cebreiro」。9 世紀に起源を持つ「聖マリア・レアル礼拝堂 – Santuario de Santa María A Real do Cebreiro」はキリストの「聖杯伝説」と関係があると言われている。ルーゴ県の産業は主に農業・牧畜・林業。

図12 ルーゴ県旗

●オウレンセ県(Provincia de Ourense):
県庁所在地のオウレンセ市 (Ciudad de Ourense) も、ローマ時代の遺跡が残り、古代の温泉跡が見られる。ルーゴ県とオウレンセ県の境に、「リベイラ・サクラ – Ribeira Sacra」(聖なる渓谷)という壮大な地域があり、6 世紀くらいから、隠匿の修道士たちの祈りの場所となった。現在では、パラドールになっている「サント・エステボ修道院 – Monasterio de
Santo Estevo」の他、各地に宗教施設が点在しており、また、渓谷沿いに広がるワイン畑は、その起源をローマ時代に持つ非常に由緒あるワイナリーである。

図13 オウレンセ県旗

3.ガリシア王国国旗と聖杯
3.1.ガリシア王国国旗
千年の昔から聖杯は政治体制としてガリシアを昔より表してきた象徴である。聖杯、キリストの血の盃は 8 世紀英国紋章譜にガリシア王国の紋章として初めて現れた。時代とともにその表現は変遷した。
現在の州章(紋章)は 1972 年ガリシアアカデミーによってガリシア王国紋章を標準化したものである。

図14 ガリシア王国国旗

3.2.聖杯
聖杯、キリストの血の聖杯は 8 世紀よりガリシア王国の旗章であった。現ガリシア州章はガリシア王立アカデミーにて
1972 年選定された。王立アカデミーはガリシア政府に現ガリシア州旗に古ガリシア王国旗の伝統を守るように提案した。
結果、旗章学を考慮した上で、州旗の真ん中に州の紋章、すなわち州章(図6)を配することになった、これが 公用の旗と呼ばれる。公用の旗、あるいは、公的機関の旗はガリシアの公的機関、州政府の公式行事に翻ることになっている。
『ガリシア州旗は自治州における公共及び公的な機関の建物に掲揚する場合は州章を伴う州旗とする。』、
1984 年法律第 5 号、第二条第二項 ガリシアのシンボル による。

3.3.セブレイロの聖杯伝説 聖なる奇蹟、聖杯の奇蹟
★巡礼路の中継地セブレイロのサンタ・マリア・ラ・レアル教会の起源は、9世紀前半に建てられたプレ・ロマネスクの教会堂。奇跡はその教会で起こった。
『伝説によれば、猛烈な風雪にもかかわらず、近くの谷に住む敬虔な農夫がミサのためにセブレイロの教会へやって来ました。しかし、ミサ担当の修道士は信仰心が薄く、心の中で、パンも葡萄酒もここでつくったもので、キリストの肉でも血でもないのに、聖体、聖血とありがたがって、こんな嵐の中よく来るものだと農夫を軽蔑しました。そんな修道士に対して神は怒り、聖体皿の上のパンをキリストの肉に変え、葡萄酒を血に変えたため、聖杯からあふれ出した血は、敷いてあった聖体布を赤く染めた。後にサンティアゴ巡礼の途中、ここに滞在したカトリック王イサベルは、奇蹟の話を聞き、それらの品を収める聖遺物箱を贈りました。奇蹟の話は、やがてヨーロッパ中に伝わり、奇蹟の聖杯は
ワーグナーの楽劇「パルジファル」の中に登場し、ガリシアの紋章にも使われることになったと。』

図15 サンタ・マリア・ラ・レアル教会(左)と協会内部、聖杯が奥に見える(右)

図16 聖杯と聖体 キリストの血と肉を表すという