連載63：「ラテン好きのためのリベラルアーツ・シリーズ」その５　ラテンアメリカの歴代オリンピック・ゴールド・メダリスト

執筆者：桜井　悌司（ＮＰＯ法人イスパＪＰ）

総じて、日本人はオリンピック大好き人間である。それに比較し、ラテンアメリカ諸国の国民はそれほどではない。アテネ・オリンピックが開催された２００４年には、ジェトロの仕事でブラジルのサンパウロに駐在していたが、ブラジル人のオリンピックに対する関心度は驚くほど低調であった。マスコミもブラジル人の活躍のみが取り上げられ、他国の選手の活躍など全く関心無しという感じであった。NHKの衛星放送は日本人の活躍につき知らせてくれるが、肝心の映像は著作権の関係で放映してくれない。フラストレーションの毎日であった。

今回、２０２０年東京オリンピックの機会に、ラテンアメリカの選手がどのくらい金メダルを獲得しているかを調べてみることにした。下記表のとおりであるが、これを見ているとラテンアメリカでオリンピックがそれほどの人気もないことがわかってくるし、ラテンアメリカのスポーツ事情もおおむね理解できる。以下、いくつかの特徴を紹介しよう。なお、カリブ海諸国については、最後に、「カリブ海諸国と陸上競技」に掲載した。

1）キューバは国策により、ラテンアメリカの中では、圧倒的多数のメダルを獲得している。フィデル・カストロ主導により、１９５９年にキューバ革命が成功し、その後、社会主義国として、スポーツに力を入れることになった。わずか１，１５０万人の人口小国にしては、信じられないくらいの多数のメダルを獲得している。特定の種目だけではなく、広範囲な種目で活躍していることも特徴である。具体的には、陸上競技では、男性は、ジャンプ競技、女性は円盤、槍、砲丸、ハンマー投げ等の投擲競技にも強さを発揮している。ボクシングの強さは圧倒的である、特にヘビー級等重量級で強い。その他レスリング、柔道、ウエイト・リフテイング等でも好成績をあげている。国策でスポーツを進行すれば、人口小国でも多数の金メダルを獲得することも可能であるいうことがわかる。

２）カリブ海諸国は陸上短距離に大きな強みを発揮している。最後の表で、カリブ海諸国の陸上競技のゴールド・メダリストを紹介したが、ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、バハマの３カ国は人口小国であるにも関わらず、１００M、２００M、リレー等で優秀な成績を上げている。それも大部分、２１世紀以降、短距離種目で特に強くなっている。特に、ジャマイカのウサイン・ボルトは、北京、ロンドン、リオの３オリンピックで、１００M、２００Mで３連覇したのは記憶に新しい。ブラジル、キューバもゴールド・メダリストが出ている。種目に特化するというのもスポーツ強化策に繋がる。

３）ブラジルは、キューバに次ぐ金メダル獲得国である。種目を見ると、セーリングが５個、柔道が４個、陸上競技が４個の金メダルを獲得している。水泳、体操、馬術、射撃、フェンシング等は各１個となっている。

４）国によって得意種目が異なる。例えば、サッカーの場合、一昔前は、ウルグアイ、最近では、アルゼンチン、メキシコ、ブラジルである。柔道はブラジルとキューバが抜きんでている。

５）ゴールド・メダルを獲得している中で、意外と思われる例もある。例えば、アルゼンチンは、２０１６年リオ・オリンピックのホッケーで優勝している。体操競技のつり輪でブラジルの選手が１２年のロンドン大会で優勝している。アルゼンチンやブラジルがセーリングに強いことも驚きである。アルゼンチンが２００４年アテネで、バスケットボール、２０１６年リオで、ホッケーで金メダルを獲得しているのもにわかに信じられない感じがする。

６）過去のゴールド・メダリストの中には、３大会連続で、または３個以上獲得しているスーパースターが　数多くいることである。下記に記してみよう。

＊ウサイン・ボルト（ジャマイカ）　１００M、２００M、北京、ロンドン、リオの３大会で優勝

＊テオフィロ・ステベンソン（キューバ）ミュンヘン、モントリオール、モスクワの３大会で、ボクシング・ヘビー級で優勝。

＊フェリックス・サボン（キューバ）バルセロナ、アトランタ、シドニーの３回にわたりボクシング・ヘビー級で優勝。

＊ラモン・フォンスト（キューバ）　２０世紀初めのオリンピックのフェンシングで３回優勝。

＊ミハイン・ロペス（キューバ）　北京、ロンドン、リオの３大会のレスリング・グレコ・ローマン１３０K級で優勝。

＊その他２大会連続のゴールド・メダリストは多数輩出している。

７）なお、冬季オリンピックのメダリストも調べてみたが、ラテンアメリカの気候のせいか、ゴールド・メダリストは見つからなかった。チリなどは冬になるとスキーが盛んであるので、将来有望なスキー選手の登場を期待したい。

８）今回は、ゴールド・メダリストだけをピックアップしたが、銀銅まで調べれば、より正確なラテンアメリカのスポーツ事情の全体像を把握するにことが可能であろう。

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「カリブ海諸国と陸上競技」