タイトル:百年の孤独
著:ガブリエル・ガルシア=マルケス
訳:鼓直
出版社:新潮社(新潮文庫刊)
刊行年月日:2024年6月26日
ISBN: 978-4-10-205212-9
(原書 Cien años de soledad, 1967)

昨今の出版界を席巻している話題といえばなんといっても、ガブリエル・ガルシア=マルケス著『百年の孤独』の文庫化ですね。
コロンビアの作家、ラテンアメリカ文学という枠を遙かに超え、世界で最も重要な文学作品のひとつといわれて久しい同書ですが、邦訳されてから50年あまり、これまでの版は単行本のみでした。

「文庫化されたら世界が滅びる」という都市伝説が生まれるほど、ある種神格化さえされてきた本書。
版違いで何冊も所有していて、今回の文庫化に当たっても、初刷を目がけて書店に走ったという熱狂的ファンが少なくないことでしょう。
一方、読んだけど内容を忘れてしまった、途中で挫折した、そして読んだことはないが挑戦してみたいという人たちにも、手に取りやすい文庫版の発売は歓迎されているようです。

版元の新潮社が、家系図やプロットの要約を載せた「読み解き支援キット」(池澤夏樹氏監修)を発売と同時に公開したこともあり、今までは難解そうで手を出す勇気がなかったという人にも敷居がぐっと下がりました。
これら様々な要素が相まって、文芸書としては異例の売れ行きにつながったのでしょう。

上記「読み解き支援キット」は、池澤夏樹氏の著書『ブッキッシュな世界像』(白水Uブックス)や『世界文学を読みほどく-スタンダールからピンチョンまで』(新潮選書)に収録されていた内容を再編集したもの。
池澤氏が邦訳版発売前に英語版で同書を読むことになったいきさつや詳しい論考が述べられたこの両書からは、同氏の『百年の孤独』愛がひしひしと伝わってきます。
複雑、難解というイメージが一人歩きしがちなこの作品に親しみを感じられるようになる、格好の手引き書といえるでしょう。

理解の一助となりそうな本に、寺尾隆吉氏の『ラテンアメリカ文学入門』(中公新書)もあります。
ガルシア=マルケスが『百年の孤独』の着想を得てから実際に執筆し、成功を収めるまでの過程が述べられた同書。
マルケスと同時代の作家たちとの関わりなどにも触れてあり、ラテンアメリカ文学全体が俯瞰されています。

関連本としてもう一冊、友田とん氏の『『百年の孤独』を代わりに読む』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)を挙げておきましょう。
『百年の孤独』を読み進めつつ、著者はあらぬ方向へと思いを巡らせ、話題は日本のテレビドラマや個人的体験に飛んでいく――。
とぼけた可笑しみにあふれていて、単独で読んでも十分面白いのですが、それでいてなぜか無性に『百年の孤独』が読みたくなってしまうという、摩訶不思議なエッセイです。

こういった関連書籍を道しるべとして、文学の常識を覆したといわれるこの名作をひもとけば、より深い読書体験が得られることでしょう。

※ご紹介した関連書籍
『ブッキッシュな世界像』池澤夏樹著、白水社刊(絶版?)

『世界文学を読みほどく―スタンダールからピンチョンまで』池澤夏樹著、新潮社刊
詳細:https://www.shinchosha.co.jp/book/603799/

『ラテンアメリカ文学入門 ボルヘス、ガルシア・マルケスから新世代の旗手まで』寺尾隆吉著、中央公論新社刊
詳細:https://www.chuko.co.jp/shinsho/2016/10/102404.html

『『百年の孤独』を代わりに読む』友田とん著、早川書房刊
詳細:https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000015873/