■「翻訳家・金子奈美さんに聞く『アコーディオン弾きの息子』の世界」を開催
イスパJP秋恒例のスペイン語文学イベント第3弾、「翻訳家・金子奈美さんに聞く『アコーディオン弾きの息子』の世界」が2020年11月21日開催されました。Zoomによるはじめてのオンライン開催でしたが、70名近い参加者を得たことを主催者としてうれしく思っています。
本書はバスク語文学の代表的作家、ベルナルド・アチャガによる長編小説です。アチャガの生まれ故郷をモデルとしたオババという町を舞台に、スペイン内戦後を生きる若者たちの人生、ふとしたことで政治的対立に巻き込まれる人びと、父と息子の確執、故郷、そして言葉を失うとは何かという深いテーマが描かれ、現代バスク語文学の「黄金時代」を証する作品と言われています。
セミナーでは、金子奈美さんとバスク語文学との出会い、少数言語バスク語をめぐる歴史、言葉と社会や人生のかかわりについて熱のこもったお話が続きました。聞き手はイスパJP副理事長、スペイン語文学翻訳者の宇野和美。
ヨーロッパ最古の言語、系統不明の孤立言語といわれるバスク語は、フランコ政権下では公的使用が禁止されましたが、その後、60年代以降の復興運動を経て話者が増え、今、バスク語で書かれた小説は世界各国で翻訳されるようになっています。
アチャガは話し方が人を表すと考えており、『アコーディオン弾きの息子』ではバスク語、スペイン語、英語、町の言葉、農民の言葉が物語と様々にからみあっています。英語も出てくるのは、主人公ダビが故郷を離れアメリカへ渡るからですが、実際、アメリカへ移住するバスク人は多いそうです。
それだけに翻訳は難しくなり、金子さんは複雑な言語関係や、登場人物の語り方の違いを日本語に訳し分けることに苦労されたとのこと。バスク語の原著から日本語へ直接翻訳された本書を読めることは、私たちにとって幸運といえるでしょう。
参加者の方々からも「もっと聞いていたかった」、「濃い内容だった」、「作者と訳者の両者の熱意が伝わった」、「いろいろな資料が提供され、バスクを多面的に理解できた」という声が数多く寄せられました。
バスク語文学に愛と情熱をかたむける金子さん。これからも名作を日本に紹介してくださることを願ってやみません。
【註】
イベント内で金子さんが紹介された「バスク(語文学)について知るための3冊+3」を、ここでもご紹介しておきます。
●『オババコアック』(ベルナルド・アチャガ作 西村英一郎訳 中央公論新社 2004)
+『ビルバオ—ニューヨーク—ビルバオ』(キルメン・ウリベ作 金子奈美訳 白水社 2008年) →12月に白水Uブックスから新装版刊行
●『現代バスクを知るための50章』(萩尾生・吉田浩美編著 明石書店 2012年)
+『地域から国民国家を問い直す—スコットランド、カタルーニャ、ウイグル、琉球・沖縄などを事例として』(奥野良知編著 明石書店 2019年)所収の萩尾生氏の論考
●『バスク語のしくみ』(吉田浩美著 白水社 2009年)
+『ニューエクスプレスバスク語』(吉田浩美著 白水社 2016年)
また、セミナー冒頭で流したベルナルド・アチャガさんの詩の朗読はこちらでお聞きいただけます。