■「対談 小池昌代ⅹ吉田栄人 ようこそ、新しいマヤ文学の世界へ -『夜の舞・解毒草』を読む」を開催
イスパJPスペイン語文学イベント第4回として、「対談 小池昌代ⅹ吉田栄人 ようこそ、新しいマヤ文学の世界へ -『夜の舞・解毒草』を読む」を2021年6月19日、オンラインで開催しました。知る人の少ない現代マヤ文学ですが、50名を超える方がたにご参加いただきました。(6月30日まで録画配信中)
 対談は、詩人の小池氏と研究者・翻訳者の吉田氏がそれぞれ異なるアプローチからマヤ文学の魅力をのびやかに語り合う2時間となり、皆さまにお楽しみいただけたようです。
全編ご報告したいのですが、紙幅の関係から一部をご紹介します。
 冒頭、『解毒草』のマヤ語朗読と、小池氏の温かい声による日本語朗読が流れ、続いて吉田氏がマヤ文学について解説。80年代からマヤの作家が自らの言語、マヤ語で作品を書くようになった歴史文化的背景、「西洋」が伝統社会に抱くオリエンタリズム、女性に差別的な先住民社会に対する女性作家たちのフェミニズムなどが丁寧に論じられました。
 『夜の舞・解毒草』(イサアク・エサウ・カリージョ・カン、アナ・パトリシア・マルティネス・フチン著、吉田栄人訳)は昨年国書刊行会より出版されたマヤ文学シリーズのなかの1冊です。『夜の舞』は少女フロールが本当の父親を求めて旅立ち、夢の中に出て来る女性「小夜」に導かれながら成長していく物語。『解毒草』は、物乞い、産婆、娼婦など社会の底辺にいる8人の老婆の話を書き記した話です。
 小池氏は、オリエンタリズムやフェミニズムなどの批評がマヤ文学の輪郭を強くしたのではないかと指摘したうえで、『夜の舞』の「小夜」という名前に注目し、日本語では「さよ」という音と漢字をもつ言葉に、ルビでふられたマヤ語の“シュ・アーカブ”が響きを重ねると語りました。また『解毒草』のなかの「彷徨」という名の女から、日本の古典、梁塵秘抄にも言及。感性豊かな詩人ならではの読みに印象づけられた人は多かったことでしょう。
 そして『夜の舞』では老婆が犬の目やにを自分の目にこすりつけ、老婆の目やにをなめる犬が出てきますが、犬が人間と同等の存在感をもち、生々しさの原形のようなものがラテンアメリカ文学にはあるのではないかと話はひろがりました。
 吉田氏はマヤ文学では犬が大きな役割を持つこと、一人称の語りが多いという点を指摘。そのほか、ヒリッチ、ヒリッチという、老婆の足音をあらわすオノマトペなど、マヤの物語の様々な特徴が語られました。
 小池氏のみずみずしい読み方と吉田氏の長年の研究にもとづいた解説は、ぐいぐいと私たちを引き込んでいき、未知の魅力をもったマヤ文学を縦横に楽しんだイベントとなりました。参加者の方々からも数々の質問が出され、理解を深めることができました。
 これからも、イスパJPではスペイン語文学の豊かな魅力を伝えるイベントを企画していきます。みなさん、どうぞまたご参加ください。
 なお、今回は初めての試みとして、『夜の舞・解毒草』を出版した国書刊行会さまのご協力を得て、同書とチケットを同時販売させていただきました(クラフト・エヴィング商會の特製しおりつき)。また、全国18書店でマヤ文学フェアが開催され、書籍が多くの方の手にわたったことをうれしく思っております。