タイトル:マリーナ バルセロナの亡霊たち
著:カルロス・ルイス・サフォン
訳:木村裕美
出版社:集英社(集英社文庫)
刊行年月日: 2024年3月19日
ISBN: 978-4-08-760789-5
(原書 Marina、1999)

スペイン人作家カルロス・ルイス・サフォンが書いた『風の影』(原題:La sombra del viento)は、言わずと知れた世界的ベストセラーです。本国での2001年の発売以来、現在までに40近い言語に訳され、1500万部以上を売り上げたと言われています。

同書に『天使のゲーム』(原題:El juego del ángel、原書出版:2008年)、『天国の囚人』(El prisionero del cielo、2011年)、『精霊たちの迷宮』(El laberinto de los espíritus、2016年)を加えた四部作は、「忘れられた本の墓場」シリーズと名付けられています。ときの流れとともに失われた本が行き着く「忘れられた本の墓場」を巡って、スペイン内戦前後の数十年間にわたり起こる出来事を紡いだ壮大な物語シリーズで、「サフォン・マニア」と呼ばれる熱狂的ファンを生み出しました。

ところが2020年、ルイス・サフォンが55歳という若さで逝去。もう新しい作品が読めないのか……と嘆いていた日本の読者にこの春、うれしいプレゼントがありました。

それが未邦訳だった本書『マリーナ バルセロナの亡霊たち』の出版です。デビューから数えて4作目の作品で、『風の影』より前に書かれました。ルイス・サフォンが初めて、出身地であるバルセロナを舞台に据えた作品でもあります。

あらすじは以下の通り。

寄宿学校に通う15歳のオスカルは、荒廃した城館に迷い込み、そこに住む少女マリーナと親しくなった。
彼女に導かれ人知れぬ墓地を訪れると、黒い蝶が彫られた墓碑に赤いバラを添える貴婦人の姿が。
好奇心で後を追うオスカルとマリーナ。
しかしその先には霧の都バルセロナの覗いてはならない秘密が隠されていた――。(集英社HPより)

華やかな観光都市としてではなく、幻想と陰影に満ちた街としてのバルセロナが描写されている点、謎が謎を呼ぶ展開など、『風の影』との共通点が多い本書。「訳者あとがき」にあるとおり、まさに同書のプレリュードであり、ルイス・サフォンにとってはこの後、ベストセラー作家として飛翔していくための転換点となった重要な作品といえます。

フランコ時代が終了して間もない1979~1980年を時代背景に繰り広げられる、謎と怪奇に彩られた少年と少女の冒険譚。「忘れられた本の墓場」シリーズと併せて読むのがお勧めです。同シリーズを未読の方はもちろん、既読の方もこの機会に再び、物語の魔術師の手になる迷宮世界で時間を忘れてみてはいかがでしょうか。

「忘れられた本の墓場」シリーズ公式サイト:https://bunko.shueisha.co.jp/zafon/