タイトル:エル・スール 新装版
著:アデライダ・ガルシア=モラレス
訳:野谷文昭、熊倉靖子
出版社:インスクリプト
刊行年月日: 2024年4月10日
ISBN: 978-4-86784-005-4
(原書 El Sur seguido de Bene、1985)
半世紀を超えるキャリアのなかで、発表した長編映画がわずか4作と、非常に寡作なことで知られるビクトル・エリセ監督。1982年に公開した長編第2作『エル・スール』は、静謐な映像が特徴的で、今なお根強い人気を誇ります。
今回ご紹介するのは同映画の原作で、アデライダ・ガルシア=モラレスが執筆した中編小説『エル・スール』。父親との関係を軸に少女の成長を描く物語です。2009年に刊行された邦訳書が、2024年に新装版として甦りました。
あらすじは以下の通りです。
〈南〉を訪れる直前で中断された、ビクトル・エリセの名作『エル・スール』の原作。
映画では描かれなかった後半部、物語のクライマックスが、いま明らかになる。
父はなぜ沈黙のうちに閉じこもっていたのか。
憧れの父の死を契機にセビーリャへ赴いた少女の見たものは……。
映画製作当時、エリセの伴侶として彼に霊感を与えたアデライダ・ガルシア=モラレスによる、時代を超えた成長小説。
2009年刊行の同内容の小説を新装版として刊行。(インスクリプトHPより)
これを読んでおわかりの通り、映画は、主人公が父親の故郷であるスペイン南部(エル・スール)を訪れる直前のシーンで終わりますが、原作にはその続きがしっかり書かれています。翻訳者である野谷文昭氏(イスパJP特別顧問)の「訳者解説」によると、プロデューサー側の都合で、エリセは原作の終盤部分を「撮りたくても撮れなかった」そうです。
映画と原作とでは、このラストの部分以外にも、たとえば母親との関係性や主人公の性格設定など、異なる点がいくつもあります。これらの相違点については「訳者解説」で詳しく述べられており、必読です。
本書は独立した小説として読むのもいいですが、併せて映画『エル・スール』を観るのがおすすめです。同映画を何度も観たという人も、初めて視聴するという人も、小説のなかでつぶさに描かれた主人公の心情や父親の苦悩に思いをはせつつ鑑賞すれば、美しい映像世界をより一層、味わい深く楽しめることでしょう。